大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(特わ)3906号 判決

被告人 高玉忠義

昭一六・三・一〇生 無職

藤井一雄

昭一六・八・二八生 無職

主文

被告人高玉忠義を懲役一年に、同藤井一雄を懲役一〇月に処する。

各被告人に対し未決勾留日数中三〇日を夫々右本刑に算入する。

領置に係るモツプの柄一本(昭和三九年押第一四六六号の2)を被告人高玉忠義より、又棒切れ一本(昭和三九年押第一四六六号の1)を被告人藤井一雄より没収する。

訴訟費用は被告人等には負担させない。

理由

(罪となるべき事実)

第一、被告人高玉忠義は、常習として

(一)  赤荻春雄、佐野富夫等と共謀の上昭和三十九年九月一日午後十一時過頃、東京都大田区西糀谷四丁目二十九番地所在バー「カナリヤ」こと田村睦子「当三十五年」方において貸売りを断られたことに因縁をつけ交々丸椅子やモツプ(昭和三九年押第一四六六号の2)をもつて同人所有の同人方の電灯、洋酒棚を叩き壊し、電灯一式外六点(時価合計約六千五百八十円相当)を破壊し

(二)  同日午後十一時過頃同区西糀谷四丁目二十九番地の一号所在飲食店「富士屋」こと篠崎正之助(当四十年)方において、かつて同人の届出により自己が脅迫罪で逮捕されたことに因縁をつけ丸椅子を振り廻して同人所有の同人方表戸の硝子十枚を叩き壊し、更に灰皿を酒類棚に投げつけ同人所有の清酒一升瓶三本外十二点(時価合計約八千二百九十五円相当)を破壊し

第二、被告人藤井一雄は、常習として、高島武昭と共謀の上同月二日午前零時過頃同区南蒲田三丁目十二番地所在遊技場「あかし」こと竹内梅次郎(当五十一年)方において、日頃右遊技場の店員が被告人藤井等の出入りを嫌つていることに因縁をつけ、交々角棒或は棒切れ(昭和三九年押第一四六六号の1)をもつて同人所有の同人方店内のパチンコ機械の硝子六十二枚外手洗場鏡等二点(時価合計約二万六千六百九十円相当)を叩き壊して破壊しもつて他人の器物を毀棄したものである。

(証拠の標目)(略)

常習の点は、被告人等がいづれも暴行、傷害等の前科があるに拘らず今また本件を犯したことに徴し認める。

弁護人は暴力行為等処罰に関する法律第一条の三の常習犯を認定するには同種の犯罪を反覆することを要するところ本件については前科は傷害罪暴行罪等で人身に対する犯罪であるのに対し本件は器物毀棄罪であつて財産犯であるから常習ということはできないと主張するけれども、暴力行為等処罰に関する法律第一条の三が新たに常習的なものを格別重く罰することにした所以は近時所謂愚連隊暴力団等が複数で傷害暴行、器物毀棄脅迫等を反覆することにより市民の平穏な生活に脅威を与えていることに鑑み常習犯の類型を定め刑を加重することによつてこれを防遏せんとするものであつて、その場合特に同種犯行を反覆すると異種の犯行を繰返すとは市民生活に脅威を与えることに於て何等異るところがないから常習犯を同種犯行を繰返す場合に限定する謂れはない、よつて弁護人の主張は採用しない。

(法令の適用)

法律に照すに判示第一の(一)(二)第二はいづれも暴力行為等処罰に関する法律第一条の三、刑法第二六一条(尚第一の(一)及び第二については同法第六〇条を適用)に該当するので所定刑期範囲内に於て夫々主文の通り量刑し尚刑法第二一条を適用して未決勾留日数中三〇日を夫々右本刑に算入し尚主文掲記の物件は判示犯行に供した物で所有者不明であるから同法第一九条第一項第一号第二号に則り夫々主文の如く没収し訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書を適用して被告人等には負担させないことにする。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 熊谷弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例